言わなくてもいいこと#2

ハロウィンが終わった翌日にはクリスマス仕様に移り変わってる街に、ついていけていないのはきっと自分だけじゃないだろう。そんなことを考えながら、夕食の用意をする母の横で、ポテサラ前のじゃがいも達にマヨネーズを入れてグチャグチャと混ぜている。味濃いめが好きだから、少し多めに調味料を入れてしまう。しょっぱい。

「うちのポテサラは胡瓜が多めやねん」と言われ、あーだからスーパーの惣菜のポテサラに違和感を感じてたのかと気づく夜。28歳。僕はまだ実家のポテサラの味のルーツも知らない。


唐突に流れるクリスマスソングに触発されて、わざわざ思い出される頭の中の映像は、だいたいいつも同じだ。小学生の頃にハマっていたゲームをサンタさんから貰ったこと、付き合って間もない初めての彼女とクリスマスデートをしたときに、公園で手袋をプレゼントしたら3分で片方を失くされたこと。その公園の、今思えば安っぽいイルミネーションの色は、記憶のなかで年々濃くなってるように感じる。そのときの彼女は僕と別れたあとに僕の同級生と付き合うことになるんだけど、最近はその同級生とお互いの失恋話を肴にお酒を飲んだりする。しょっぱい。


他にも色々思い出すことはあるけど、その思い出が胸を温めてくれるか、空気の冷えを強めるかは、正直そのときの気分次第で、そんなことに振り回されていられない、と心の余裕がない場面が少し増えた気がする。思い出との付き合い方が、自分の心身のバロメーターになっている。


渋谷のハロウィンで、警備の強化などに1億円の税金を投入したことが騒がれていた。「バカの為にそんなお金使うなんてもったいない!」という声は、ごもっともと思う。

でもその裏で、そのバカたちが渋谷ハロウィンのために約1200億円のお金を落としていってることも軽視できない。いわゆる経済効果ってやつだ。僕も深くは調べてないから全部のお金の流れまではわかんないけど、この1200億円が巡り巡って日本人の生活を豊かにするんなら、1億円の投入は1億円の投資に変わり、絶対的な悪ではなくなるんじゃないかな。もちろんハロウィンの1日はうるさくて鬱陶しくてたまらないだろうけど。悪いのは痴漢やなんやで逮捕される9人のバカだけでいいんだよ。対角線上にあるものは何か、物事を細分化できているか、頭の中を整理できるだけの言葉を持っているか。自分の想像力の狭さをいつも問いかける。どれだけ丁寧な言葉を選んでも、言葉にすれば誰かを傷つけてしまう。


偉そうなことを言ってるけど世の中にはまだまだ僕の知らない"仕組み"のようなものがあるはずだ。例えばオカンが作るポテサラの味とかな。あと小汚い居酒屋で飲む熱燗と、一品もののアテはなぜあれほど美味しいのか。ヤバい粉でも混ざってんじゃないですかね。お酒を飲んで後頭部がホワホワとした状態で夜の街を歩く。喧騒から離れた静かな路地で、横に並ぶ友人達と悩みや本音を話す。言わなくても言いことまで言ってしまうのは、きっとヤバい粉を盛られたからに違いない。


出生月について「7〜10月」が多いと聞いたことがある(諸説あるけど)。当時はなにも考えなかったけど、あーこれってハロウィンからクリスマスにかけての出逢いが多いからなんだろなーって逆算して思う。僕の誕生日は3月。父の誕生日は5月。あぁ、親父が誕生日に頑張ったから俺が生まれたのか。そんなことを思いつつ、家族でテレビを観ながらポテサラを食べる。

 

『しょっぱい!』。