言わなくてもいいこと#4

朝。パリッとした冷たい空気に包まれる時期になると、昔付き合っていた彼女が歌っていたある曲を思い出す。歳上のその人は見た目はしっかりしてそうやけど中身はポンコツで、でもとびっきり音楽を愛していて、とても歌が上手かった。というか声が好きだった。言ってくれた言葉と、言われた言葉と、その声をたまに思い出す。忘れない声を反芻する。心地よい呪いを耳の奥で繰り返して、一度しか言われていないことを100回言われた気になる。人のコンプレックスが髄まで染み込む理由はこれやろな、と思いながら、しばらくはその心地よい呪いを抱えて夜を過ごす。

 


「声色」という言葉があるように、声で感情を読み取ることができるし、気持ちを伝えることもできる。これを利用して、音程や抑揚を工夫しながら説得力を持たせたりすることは営業マンや詐欺師の初歩的なテクニックだったりもする。技術的なものじゃなくて、才能みたいなものもあるらしいけど。(1/fゆらぎは鬼殺隊のみんななら聞いたことあるよな!)

 

 

 

声が聞きたい。文字だとしても、言葉でありたい。声にメロディが乗って、音楽になっても素晴らしい。メロディに乗り切らない想いも、ポエトリーリーディングしていれば伝わるかもしれない。一人でも歌う誰かを、責められる誰かなどいようはずがない。弾き語りが上手な女の子って最高だよな。僕はいつになればハイトーンボイスが出せるようになるのでしょう。ドラゴンボールが目の前にあったらどこまでも無限に出せる声を望むよ。ポッポルンガ!プピリットパロ!

 


僕は人生経験の薄い人間やから話すことで伝えたり、相手を感じたりできるけど、それでいて最近思うのは、それでも世の中には文字で伝えられる人がいる。

 


写真家の幡野広志さんや高橋伸哉さんをはじめ、日々のツイートからnote、cakeでの連載など、限られた文字数でも本質を突いて、自由な場では周りの目なんて気にせずに書いている。

 


言葉に重みを持たせるのはその人の経験や人柄があるからで、同じ言葉を他の誰かが書いても、同じ重みにはならない。日本語って難しいから。キムタクが「ちょ、待てよ」って言ったらドラマチック展開になりそうやけど、三谷が「ちょ、待てよ」って言うたら、なんか焦ってカバンとか落としてそうやん。

 


そうなると「声色」だけじゃなくて「文字色」みたいなものもあれば良いのにと思ったけど、いや文字色はあるな。フォントもサイズも変えられる。改行もできるし、文字同士の感覚も空けられる。文字表現も色々できる。(一応クリエイティブの仕事もしてたので。)

 


やったら「声」と「文字」の違いってなんやろうと考えたとき、たぶん、「温度と匂い」やないかなと思いました。

 


その人やから発せられる声、言葉。

 


神龍、キムタクにはなれなくてもいいから、せめて真剣佑くらいにはしてくれよな。